神様のおはなしF

 

今回は紙の神様のお話です。

現代はパソコンなどが広く使われるようになり、紙に文字を書くことが昔に比べると減ったようには感じます。それでも、大事なことは紙に残して置くという習慣は決して無くならないように思います。

紙の神さまは、福井県福井県越前市の岡太神社(おかもとじんじゃ)というところにお祀りされています。

今から千五百年ほども前、第二十六代の継体天皇(けいたいてんのう)がまだお若い頃、越前の国(今の福井県)に山と山に囲まれた小さく貧乏な村がありましたが、

ある日村人が、前を流れる岡太川に目をやると、美しい女性がこちらを見て立っておられました。不思議に思って村人が近付くと、その方は「この村は暮らしは楽ではないですね」と尋ねられました。村人が「はい、その通りでございます」と答えると、女性は川の水を指さしながら「ここには、こんなにきれいな水が流れています。この水を使って紙をおすきなさい。きっと、いい紙ができます」と仰っしゃいました。 

村人は紙がどんなものか知りませんでしたので「それはどんなもんでございますか」と尋ねました。「紙というものは、字を書くときに使うものです。紙を欲しがる人は多くなります。紙のすき方を教えてあげましょう」

そう仰って丁寧に紙のすき方を教えて下さいました。熱心に聞いていた村人はその教えが終わると「あなた様は、いったいどういうお方なのでしょう」と尋ねると「私は岡太川(おかもとがわ)の川上に住んでいるものです」、そう言うとす〜っとその姿は消えて行きました。

村人は驚きましたが、「きっとあの方は神様だ。神様がこの村を救う道を教えて下さったんだ」、そう呟いて皆にその話をしました。

村人たちはありがたく思い、この紙作りを子々孫々受けついでいこうと誓い合いました。

その後、村の紙は全国で使われるようになり生活は段々とよくなりました。村人たちはこの神様を「川上御前」と呼び、岡太神社を建てて、紙祖神(かみのみおやのかみ)として長くお祀りしました。


参考 花岡大学著「若狭・越前の伝説」